大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和38年(ワ)4327号 判決

原告 ピー・エフ・カリヤー・インコーポレーテッド

日本における代表者 林克彦

右訴訟代理人弁護士 河野宗夫

右訴訟復代理人弁護士 林彰久

同 谷浦光宜

被告 ゲーツ・ロナルド・アール

右訴訟代理人弁護士 松井邦夫

主文

右当事者間のアメリカ合衆国ハワイ州地方裁判所民事第二、二九五号事件について同裁判所より昭和四一年(西暦一、九六六年)七月六日なされた給付判決に基いて、原告が被告に対し強制執行をすることを許可する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告)

一、請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

(被告)

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

(原告)

一、請求原因

(一)、原告は肩書地に本店を有し、アメリカ合衆国デラウエア州法に準拠して設立された書籍の出版販売を目的とした有限責任会社であり、かつ日本に営業所を有し外国会社としての登記がなされている会社である。一方被告は西暦一、九六〇年一二月二七日ころから原告会社の日本における代表者に任命され、翌一、九六一年四月四日ころ右代表者の登記を経て、日本において原告発刊書籍の販売、その代金の集金等の任に当っていたものである。

(二)、被告は一、九六四年七月、原告を相手にアメリカ合衆国ハワイ州地方裁判所に三六万七、〇〇〇米ドルの書籍販売手数料支払請求の訴を提起したので、原告は同訴訟において被告に対して、

(1)、被告が日本において書籍の現金販売による代金のうち一部を右書籍の月賦販売代金の頭金として原告に納金し、残金を着服して原告に支払わない金額二〇万七、四一六米ドル、

(2)、原告が被告に対して貸し渡した金一万米ドルのうちすでに返済した一、〇〇〇米ドルを除いた九、〇〇〇米ドルの貸金残額、

(3)、原告が被告に対する訴訟のため委任した弁護士に対して支払った三万六〇一一・九九米ドル(訴変更申立書に三万八〇一一・九九米ドルとあるのは誤記と認められる。)を被告の前記行為により生じた付加的損害金として、

(4)、右金員のうち二一万六、四一六米ドルについて一九六二年五月二日から完済まで年六パーセントの利息を付して、

原告に支払うべく反訴を提起した。

(三)、しかして、アメリカ合衆国ハワイ州地方裁判所は一、九六六年七月六日、被告の原告に対する請求を全部棄却し、原告の被告に対する二五万二四二七・九九米ドルの支払請求を認容する給付判決を下した。被告は右判決について、アメリカ合衆国第七巡回控訴裁判所に控訴を提起したが、同裁判所は一、九六七年六月一四日、右控訴を全部棄却し前記判決を維持した(ただし、認容金額は前記二五万二、四二七・九九米ドルに利息金五万四二四八・二六米ドルを加えた三〇万六、六七六・二五米ドルとした)。被告はその後控訴裁判所に再審請求をしたが同裁判所は一、九六七年七月二六日、右請求を棄却した。さらに被告は、アメリカ合衆国最高裁判所に対して事件移送命令に基く同事件の再審査請求の申立をしたが同裁判所は一、九六八年三月四日右申立を棄却した。以上の結果によりアメリカ合衆国ハワイ州地方裁判所がなした前記原・被告間の判決は確定した。

(四)、右確定判決は日本国民事訴訟法第二〇〇条各号の要件をみたす外国判決である。

すなわち、アメリカ合衆国ハワイ州地方裁判所は日本国の裁判所によりなされた判決に正当な効力を与えている。アメリカ合衆国裁判所は外国判決に対して、

(1)、正当な管轄を有する裁判所によってなされたか否か、

(2)、当事者は正当な通知を受け、答弁の機会を与えられたかどうか、

(3)、判決手続は詐欺的なものでなく公の秩序に従ったものかどうか、

の諸点を審査するだけである。右の一般原則を適用した上で、アメリカ合衆国第九巡回控訴裁判所は日本国の判決の効力を認めている(ダレス対カワモト事件=一九五八年第九巡回裁判所)。

(被告)

二、請求原因に対する認否

請求原因第一、第二、第三項記載の各事実を認め、第四項の主張は争わない。

三、証拠関係≪省略≫

理由

一、原告主張の請求原因第一、第二、第三項記載の各事実については当事者間に争いがない。そこで同第四項について検討するに、

(一)、まず、民事訴訟法第二〇〇条第一号についてみると、わが国には、ある民事事件について一般的に外国の裁判権を否認する趣旨の法令または条約は存在せず、具体的には、アメリカ合衆国ハワイ州に居住する被告に対し、同国の裁判所が本件係争につき裁判権を行使することを否認する法令もない。従って同号については問題はない。また同条第二号の要件についても被告が日本人でないことから問題はない。また、同条第三号の要件についてであるが、この点を考えるについては、当該外国判決の主文のみならず、右主文の導かれるに至る基礎認定事実をも考慮して判決内容が公序良俗に反しないかを判断すべきものであるところ、≪証拠省略≫によれば、本件外国判決は、当時原告会社の日本における営業所の代表者として、書籍の販売組織を作り、訓練し、維持するとともに右書籍販売代金を集め原告会社に送金されるべき任に当っていた被告が実際は現金で右書籍を販売しながらこれを月賦販売である旨原告会社に報告し、右受取代金のうち一部を月賦金として納入するのみであって残額を着服横領したとして、相当損害金を原告会社に支払うよう判決したものであることが認められるので、もとより右判決が公の秩序、善良の風俗に反するとすることはできない。

(二)、そこで民事訴訟法第二〇〇条第四号の「相互の保証」の存否について判断する。ところで同号が外国判決に対して執行判決を付与するためには国際法上の相互主義の観点から外国が日本国の確定判決の効力を認める要件とわが国が当該外国判決の効力を認める要件とを比較して同等か、あるいは少くとも前者の要件が後者のそれよりもゆるやかであることが必要であるが、このことは必ずしも当該当事国間の条約、協定などの取り決めで明定されている必要はなく、双方の国内の法令あるいは慣例によってでも前記の点が確保されるをもって足るというべきである。以上の見地から本件の場合をみるに、アメリカ合衆国ハワイ州においては外国判決の効力を否定しまたは明白に肯定するような法令あるいは判例、慣例の存在することは認められず、その効力承認の要件については、≪証拠省略≫および当裁判所が文献を調査したところによれば、アメリカ合衆国は同国内において外国判決の効力が承認されるためには、当該外国判決が(1)、正当な管轄を有する裁判所によってなされたものか否か、(2)、当事者が正当な通知を受け、答弁の機会を与えられていたか否か、(3)、判決手続は詐欺的なものではなく公の秩序に従ったものであるか否かとの各点を審査し、その要件を充たした場合には外国判決の効力を承認するものであり、このことはアメリカ合衆国最高裁判所におけるヒルトン対ギョー事件(アメリカ合衆国判例一五九冊、一一三項)においても「国際間の礼譲の原則により」としてこれを肯定していることが認められる。しかりとすれば、アメリカ合衆国ハワイ州においても右アメリカ合衆国の右外国判決の効力に関する解釈に従うものであると推認することができる(合衆国憲法第四条、修正第一〇条によれば、法令および司法手続につき広汎な州権が認められているが、右最高裁判所の判例に反するハワイ州の法令、判例、ならびにこれを基準にした連邦裁判所の判例は見られない。)。以上の点をわが国の民事訴訟法第二〇〇条各号に規定する要件と比較してみるところ、少くとも日本国における外国判決の効力承認のための要件よりもアメリカ合衆国(ハワイ州)における要件が厳格であるということはないといいうる。よって日本国とアメリカ合衆国(ハワイ州)との間において「相互の保証」が存在するというべきである。

二、よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小堀勇 裁判官 中野久利 裁判官川上正俊は転任につき署名押印できない 裁判長裁判官 小堀勇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例